なぜ「分かっているのに動けない」のか|神経科学が解き明かす行動停止のメカニズム

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「何をすべきかは分かっている。でも、できない」

この矛盾に苦しんでいるなら、あなたは怠けているのではありません。
あなたの脳は、極めて忠実に、過去の生存戦略を実行しているだけです。

意志の力では変われない理由

四半期目標を達成できなかった創業者が、こう語りました。

「頭では分かっています。でも、本当に重要な瞬間になると、体が動かないんです」

聡明で、
経験豊富で、
規律もある。
それでも前に進めない。

この段階に至ると、人は自分自身を疑い始めます。

  • 自分のどこかが壊れているのではないか

  • なぜ他の人はできているのに、自分だけが止まるのか

  • まだ努力が足りないのではないか

しかし、神経科学の視点から見ると、ここで起きている問題は戦略でも努力でもありません

崩れは、もっと手前で起きています。

思考より前。
選択より前。
意図が生まれる、

その前で…

脳が選ぶのは「正しさ」ではなく「生存」

プレッシャーがかかると、脳は最も慣れた神経回路に、自動的に電流を流します(Fuster, 2015)[1]。

  • 決断すべき瞬間で、わずかに間が空く

  • 本来は一歩出る場面で、「もう少し様子を見る」と判断する

  • 冷静であろうとした結果、言葉が出てこなくなる

  • 送ろうとしていた返信を、下書きのまま閉じてしまう

これらの行動は、非合理には感じません。
むしろ、とても馴染みのある感覚です。

なぜなら、脳は常に「過去の予測」と「今の現実」を照合しているからです(Friston, 2010)[2]。

たとえ結果が苦しくても、以前と同じ反応で何とか乗り切れた経験があれば、神経系はそれを「安全な選択肢」として保存します。

  • 沈黙は、衝突を減らした

  • 耐えることは、安定を守った

  • 先延ばしは、危険を回避した

だから、その反応パターンは自動化されるのです。
最適だからではありません。

一度、生き延びるのに役立ったからです。

脳の予測エラーこそが変化の入口

では、どうすれば神経回路を更新できるのか。

答えは「無理やり変える」ことではありません。

自分を作り変えることでも、
前向きに考え直すことでも、
意志の力で押し切ることでもない。

それは、神経系が更新できる「窓」を見つけることです
(Bouton, 2004)[3]。

その窓は、予測と現実が、ほんの少しズレた瞬間に開きます。

「……あれ?今回は、前と少し違うかもしれない」

この静かな違和感こそが、脳にとっての学習可能状態(predictive error signal)なのです。

必要なのは、大きな決断ではありません。

5%だけ、違う反応です。

  • 声のトーンを、ほんの少し和らげる

  • 顎の力を抜く

  • 返す前に、呼吸を一つだけ深くする

  • メッセージを短く、明確に送る

  • 説明を足さず、そこで止める

小さな変化が回路を書き換える

大きな変化は、脳にとって脅威です。
脅威は、既存の回路を固定します。

小さな変化は、安全を教えます。
そして安全だけが、脳を更新させます(Porges, 2011)[4]。

回路が静かに更新されていくと、リーダーは自分を管理する必要がなくなります。

  • 迷いが割り込む前に、行動が始まる

  • プレッシャー下でも、判断が濁らない

  • 感情はあっても、ハンドルは握られている

  • リーダーシップが「頑張るもの」ではなくなる

人生は、オートパイロットから、選択している感覚へと戻っていきます。

今日の問い

今のあなたにとって、一番小さな「開口部」はどこでしょうか。

  • 反応する前の、ほんの一拍

  • より簡潔な返答

  • 5%だけ違う行動

本当の変化は、だいたいそこから始まります。

🎧 Podcast最新エピソード公開中

かち脳ラボ with Dr. Yoshi」
EP 006 | 脳の『リプログラミング』とは何か?
https://youtu.be/8rXhi5UpeQc

💬 今、あなたはどんな場面で止まりやすいですか?
何を守ろうとしていそうですか?

コメントでお聞かせください。

👤 Dr. Yoshi


参考文献

[1] Fuster, J. M. (2015). The Prefrontal Cortex (5th ed.). Academic Press.
[2] Friston, K. (2010). The free-energy principle: a unified brain theory? Nature Reviews Neuroscience, 11(2), 127-138.
[3] Bouton, M. E. (2004). Context and behavioral processes in extinction. Learning & Memory, 11(5), 485-494.
[4] Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory: Neurophysiological Foundations of Emotions, Attachment, Communication, and Self-regulation. W. W. Norton & Company.

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